福井大学 工学研究科 明石研究室

簡易分光器

 この文章は、社団法人日本電球工業会の会報に掲載されたつぎの技術情報に手を加えたものです。
 明石行生, 中川慶子, 山田佐知, 2009, 光源の分光特性と効率−簡易分光器を教材として, 電球工業会報, No.507, 35-39

簡易分光器開発の背景(光源の分光特性について)

  現在、私たちの周りには様々な光源が使われています。それらの光源にはそれぞれ特徴があり、空間の用途に応じて、効率の良い光源を選ぶ必要があります。それには、まず、光源の分光特性について学ぶことが重要です。
 光源の効率[lm/W]は、単位電力[W]あたりの光束[lm]で定義されます。ここで重要なのは、光束は、物理量である放射束[W]を人間の錐体の作用感度である標準比視感度で重み付けをした心理物理量であることです。そのため、点灯・制御回路などの効率が同じ場合、錐体の分光感度が高い波長(555 nm)を中心とする波長域に分光エネルギーが集中している光源ほど、効率の高い光源となります。
 例えば、低圧・高圧ナトリウムランプの効率が高く、白熱ランプの効率は低いのはそういう理由です。ところが、低圧・高圧ナトリウムランプは、可視光波長域の周辺部に放射エネルギーが少ないために、その照明の下では黄色とオレンジ色以外の色はきれいに見えません。一方、白熱ランプは、可視光の波長域全体に放射エネルギーが分布しているため、全ての色が鮮やかに見えます。特に、長波長域のエネルギーが高いので、赤色が鮮やかです。このことから、光の質を保つうえで重要な色の見えも光源の分光特性に依存することがわかります。
 このように、光源の分光特性を理解することにより、空間の用途に応じて、光の質と効率のバランスを考えて光源を選定することが可能になります。


 確かに、光や照明の理論は、文章を読むだけでは、理解しがたいですが、一度、現象を見ると瞬時に理解できます。そこで実際に種々の光源を点灯し、分光器を使って光源のスペクトルを見ることで、これらの理論に対する理解が深まると考えました。そこで、簡易分光器を開発しました。図1に、修士1年生の中川慶子氏がデザインした簡易分光器の完成品を示します。
図1 簡易分光器とペーパークラフト

簡易分光器のしくみ

  この簡易分光器は、四角い窓に貼った回折格子により、光の回折と干渉の原理に基づいて入射光を分光します(図2)。その回折格子は、1mmあたりに500本の筋が刻まれた透過型回折格子フィルム(Edmund Optics社製 54509-K)です。光源から発せられる光のうち、約2mm幅のスリットから入射した光は、フィルム上に投影されます。筋が刻まれていない平らなところに投影された光は、フィルムを透過する際に回折を起こします。2 mmのスリット幅に存在する約1000本の筋のそれぞれで回折が起こり、回折した光が互いに干渉しあうことで、波長ごとに特定方向に干渉縞を生じます。これが、光源のスペクトルです。太陽光や白熱電球のように、可視波長域の全ての波長に渡って分光エネルギーを有する光源の場合、そのスペクトルは虹のように連続して観察できます(図3)。一方、三波長域発光型蛍光ランプの場合、青・緑・赤のスペクトルが強調された不連続なスペクトルが観察できます(図4)。この簡易分光器は、そのスペクトルを観察するためのツールとして開発されました。

図2 簡易分光器の仕組みと使い方
図3 白熱電球のスペクトル
図4 三波長型蛍光ランプのスペクトル

簡易分光器の作り方

 この簡易分光器は、ペーパークラフトのように、接着剤(でんぷんのり、木工ボンド、両面テープなど)を用いて、次の手順に従えば簡単に組み立てることができます。

  1. 簡易分光器キットから2つの部品(パーツ1、パーツ2)をミシン目に沿って抜き取ります。
  2. 各パーツを線に沿って折ります。実線は山折にし、点線は谷折にします。図5に示すように、パーツ1のストッパーは谷折にし、パーツ2のストッパーは山折にします。こうすることで、両パーツを組み合わせたときに、ストッパー同士が引っ掛かり、抜け落ません。
    図5 ストッパーの折り方


    図6 パーツの組み合わせ方向
  3. のりしろに接着剤を付け、張り合わせると、パーツ1とパーツ2が出来上がります。
  4. パーツ1をパーツ2の中にはめ込みます。その際、図6に示すように、両パーツの端部の辺が平行になるように注意して下さい。以上で簡易分光器が完成します。

簡易分光器の使い方

       光源に対して簡易分光器を図2に示すように配置し、つぎの手順でスペクトルを観察します。
  1. パーツ2からパーツ1を引き出します。
  2. スリットを光源のほうに向けます。たとえば、天井の蛍光ランプや窓の外の青空などに向けます。このとき、太陽など高輝度光源を直接見ないように注意しましょう。
  3. 回折格子を貼った四角い窓から、視線方向が窓面に対して垂直になるように覗くと虹のようなスペクトルが観察できます。このとき、光が入射するスリットの位置から視線の方向を少し下げると見やすくなります。(図7)
  4. 観察が終わると、簡易分光器を縮めて収納します。

 光源メーカーの方々に提案したいのは、消費者にカタログと一緒にこの簡易分光器を提供することです。さらに、表1に示すように、各種光源について、種々の特性のカタログ値およびスペクトルとともに、簡易分光器により観察できるスペクトルの写真とその光源で照明した色票の写真、各光源を使用した照明施設の写真を提供してはどうでしょうか。表1のスペクトルは、瞬間マルチ測光システム(分光照度計)により測定したものです。このスペクトルと簡易分光器により観察したスペクトルを対応させると、消費者にとってもスペクトルの意味がわかるはずです。
図7 視線の方向